2023年11月1日
今から25年ほど前、私たちのまちの良好な環境を保全し、未来の世代に引き継ぐため、「環境基本計画」の策定に着手しようとした。しかし、当時ニセコ町では、日本でまだ自治体としての認定のなかったISO14001の基礎知識を得るための職員研修費予算が町議会で否決された。「環境で飯は食えない。環境に使うお金があるならもっと農業に」というのが主な意見であった。環境問題に対して理解の進んでいない状況下で、町主導では良い環境基本計画はできないと考え、この計画づくりの核となる事務局を役場の外に置き、住民自治による計画づくりを行おうと考えた。
まず、事務局長と事務局員、そして、同計画づくりに参加したいコアメンバーを公募した。植物を研究しているペンション経営者が事務局長に手を挙げ、10人ほどが参加、2年間に及ぶ全て公開での町民による計画づくりがスタートした。環境を学ぶには「地元学」からと、先駆的な環境政策を展開している水俣市の吉本哲郎氏をメイン講師にお願いをした。水俣病の歴史から日本一と言われる環境都市への壮絶とも思える苦悩の歩みは、多くの町民の心に残ったように思う。
町のあちらこちらで私たちの命を支える「水を巡る」フィールドワークが始まった。町民主導による環境計画づくりは、多くの環境保護活動に当たられている皆さんの共感を得て、道内各地にお住いの専門家の方々が環境調査を積み重ねてくれた。わずか1年の間に、河川の生態系、まちや森林の植生、野鳥の分布状況など、30枚ほどの町の環境データマップが完成、これを基にさまざまな議論が積み重ねられた。議事録を始はじめとする細かな事務の整理は、地元コンサルタントのオーナーが献身的に取りまとめてくれた。
町民の皆さんがまとめた環境基本計画のタイトルは、「子どもの笑顔が輝く 水環境のまちニセコ」というものだった。水が森を育み、清流を生み、動植物の命を支える、「水」を基本にニセコ町の環境政策は進められてきているのです。
片山 健也
かたやま・けんやニセコ町長。1953年北海道生まれ。1975年東洋大学法学部卒業、民間会社を経て、1978年よりニセコ町役場勤務。町民総合窓口課長、総務課参事、会計管理者、教育委員会学校教育課長等を歴任し、2009年10月ニセコ町長に就任し、現在4期目。全国首長連携交流会共同代表、水資源保全全国自治体連絡会副会長、国民保養温泉地協議会会長、世界首長誓約日本委員長代理、後志広域連合長、羊蹄山麓町村長会議会長などを務める。