水の惑星?
LIXIL Water Technology (LWT) Japan 担当
2022年9月5日
地球には大量の水が存在する。しかし淡水は全水量の約2.5%にすぎず、しかも偏在する。水は地球全体に存在するのではなく、限られた国や地域に存在し、季節や時間に応じて転々として、限られた地域内で循環する。
近年、フランスやスペイン、米国カリフォルニア州のような先進国における水不足が取り沙汰されているが、開発途上国ではさらに深刻である。水不足の上に、安全で衛生的なトイレがないことから衛生環境が悪化しやすく、生命の危険さえある。一方、日本では、いつでもどこでも蛇口をひねればきれいな水が出て、そのまま飲むことができる。豊富な水と長い年月をかけて整備されたインフラがあるからだ。
そんな恵まれた環境の中であっても、日本人の節水意識は高まり続けている。素晴らしいことであるが、水は地球全体を循環しないので、少々乱暴な言い方だが、日本がいくら節水しても、世界の渇水地域に直接的な影響を与えることはない。水はローカルな資源であり、ローカルな社会で循環させるべきである。そのため、水不足の国や地域へは、水が豊富な国からの輸送といったコストがかかる方法ではなく、水インフラや循環設備の整備が大きな貢献となる。
地球は、宇宙空間においては確かに水の惑星だろうが、その恩恵に授かれる人は限定される。当社LIXILの事業は、文字通り“水まわり”である。世界には衛生や水の保全に関する問題が多々ある。どうすべきか?その答えは数多あるだろう。その中で当社は、“安全な水へのアクセス”に着目している。偏在する水に対し、一人でも多くの人々が安全な水にアクセスできる。こういった社会環境の実現に貢献することが重要だと信じている。
実際に当社は、“SATO”という数ドルで製造できるプラスチックの開発途上国向け簡易式トイレシステムを衛生問題に悩む地域に供給してきた。また、ペットボトルを逆さまに固定して最小限の水量を無駄なく安定して放出する“SATO Tap”を開発し、これも開発途上国向け手洗いソリューションとして供給してきた。日本でトイレを1台売るごとに、衛生環境改善のための寄付に充てるキャンペーンも行ってきた。
現地から感謝の意を伝えられたことはもちろん嬉しかったが、国内でこのキャンペーンに協力してくれた事業者さまからも感謝されたことは望外の喜びだった。排泄、手洗いと取り組んできたからには、次は“飲み水”であろう。唐突だが、アフリカ諸国では飲み水(煮沸して飲む水も含め)を手に入れることが生活の中心であり、多くの時間を要する日課となっている。プラスチック簡易トイレ、手洗い製品、それに続く、飲み水生成装置を想像(創造)している。
私自身が日本に生まれ育ったことは、水という観点から見れば、とても幸せなことだった。その何気ない幸せな暮らしがある場所から海を越えた隣には、想像を超えた生活がいまだ多くある。水に関わる仕事に就いたからこそ、自らの境遇に感謝しつつ、ほんの少しでも、水に恵まれない地域の人々に貢献したいと思っている。“水の惑星”とは何かを追求しつつ。
株式会社LIXIL 執⾏役専務 LIXIL Water Technology (LWT) Japan 担当。愛知県東海市出身。1988年株式会社INAX入社。住宅設備関連企業との合併・再編を経て、2011年株式会社LIXILに。その後、同社住設・建材カンパニー商品本部マーケティング統括部統括部長を皮切りに、LIXIL Kitchen Technology Japan上席執行役員 CEO、取締役専務役員、LIXIL Water Technology Japan CEOなど要職を歴任。2020年7月より現職。
株式会社LIXIL
第1回
トンボで守る食の安全
第2回
水塊が生まれた記憶
第3回
汽水、匂い立つ水辺で
第4回
水の重要性
第5回
日常の水・非日常の水
第6回
水の惑星?
第7回
生命の「動的平衡」と水
第8回
水の都?東京のひみつ
第9回
土佐和紙と仁淀川
第10回
人が育む阿蘇の地下水
第11回
経験したことのない大雨と事前防災
第12回
水と医療設備の切っても切れない関係
第13回
カンボジアが水の危機に直面していると考えたことはありますか?
第14回
水利秩序の変化と昔話
第15回
奇跡の泉
第16回
完全雨水生活で気づく日常生活の問題点
第17回
水と演劇
第18回
コーヒーと水の関係
第19回
山の上の植物園
~牧野博士が遺した悩みのタネ~
第20回
山の人
第21回
「水」環境のまち
第22回
気象レーダーと雨粒の形
第23回
水は数十億年の地球の恵み
第24回
知的好奇心を探求する海
第25回
水で育つ野菜