水と医療設備の
切っても切れない関係
特定非営利活動法人
メドゥサン・デュ・モンド ジャポン事務局長
2022年10月17日
温かい飲み物がおいしく感じ始めてきた今、あらためて「水」について考える。水とは、人が人間らしい生活をするために必要なもの。よって、2002年から「水は人権である」と言われてきた。このコロナ禍の3年間、感染予防策として手洗いが推奨され続けた。しかし、家の近くに清潔な水がないとされる世界の10人に1人(※1)はどうしたのだろう?
また、世界中で異常気象が起きる中、水汲みに毎日2時間かけている(※2)女性たちは、十分な水が得られたのだろうか?その水汲みに要する時間は、彼女たちがやりたいことに使えたかもしれない。例えば、学校に行って新しいことを学んでワクワクしたり、仕事をして収入を得たり、あるいは家族と団らんをしてゆっくりとした時間を過ごしたり。
その一方で、たとえ水があっても、トイレや手洗い設備など衛生環境が改善しないのであれば、その人たちはどうしたのだろう?暗くなるのを待ってからトイレに行くのだろうか?襲われる危険をさらして?これは実際に、ロヒンギャ難民キャンプで女性たちが直面する現実だ。
さらに、病院などの医療施設を利用する人たちはどうだろうか?WHO・UNICEFの2019年の報告書によると、世界では8億9600万人が医療施設で水にアクセスできていない。医療施設の水設備の不備で、最も影響を受けるのは女性たちだ。
現在、世界中の保健・福祉の現場で働く人の7割は女性だ。そして、不衛生な環境で感染症にかかって命を落とす妊産婦の死亡率は11%に上る。日本では1%にも満たない上に、感染症で亡くなるという情報は挙がっていないにもかかわらずだ。また、世界で生まれる新生児の26%は、不衛生な環境での出産で亡くなっている。(※3)
衛生状態の良い水設備とは何だろうか?清潔なパイプで水が運ばれてくること、水質が基準値に達していること、継続的に水が供給されていること、トイレの数や下水の処理、排泄物の処理が行き届いていることなどではないだろうか。
「病院に行っても病気が治らない」という途上国の現実は、このような衛生状態の良い水設備がない環境にも起因しているのだと思う。
※1,2 Clean Water, Decent Toilets and Good Hygiene | WaterAid UK
※3 1 in 4 health care facilities lacks basic water services – UNICEF, WHO
「世界の医療団」 特定非営利活動法人 メドゥサン・デュ・モンド ジャポン事務局長。スポーツメーカーで海外営業として働く傍ら、阪神淡路大震災時より多言語放送局の立ち上げ・運営に携わる。アメリカの大学で国際関係学を学び、修士号取得。国際機関でのインターンなどを経て、NGOで必須サービスや、食料・栄養分野でのアドボカシー・キャンペーンに関わる。南アジア、アフリカを拠点に現場で国際協力に携わった後、2020年3月より現職。
「世界の医療団」
特定非営利活動法人 メドゥサン・デュ・モンド ジャポン
第1回
トンボで守る食の安全
第2回
水塊が生まれた記憶
第3回
汽水、匂い立つ水辺で
第4回
水の重要性
第5回
日常の水・非日常の水
第6回
水の惑星?
第7回
生命の「動的平衡」と水
第8回
水の都?東京のひみつ
第9回
土佐和紙と仁淀川
第10回
人が育む阿蘇の地下水
第11回
経験したことのない大雨と事前防災
第12回
水と医療設備の切っても切れない関係
第13回
カンボジアが水の危機に直面していると考えたことはありますか?
第14回
水利秩序の変化と昔話
第15回
奇跡の泉
第16回
完全雨水生活で気づく日常生活の問題点
第17回
水と演劇
第18回
コーヒーと水の関係
第19回
山の上の植物園
~牧野博士が遺した悩みのタネ~
第20回
山の人
第21回
「水」環境のまち
第22回
気象レーダーと雨粒の形
第23回
水は数十億年の地球の恵み
第24回
知的好奇心を探求する海
第25回
水で育つ野菜