第30回

魚が消えていく本当の理由

片野 歩
Fisk Japan株式会社代表取締役

2025年8月1日

サンマ、サケ、スルメイカをはじめ、多くの魚種で漁獲量が減り続けています。世界全体では横ばいなのですが、1956年に同じ形で統計を取り始めて以来、日本では2023年に過去最低を更新、2024年はさらに減る見通しです。
漁獲量が減った原因でよく言われているのが「海水温上昇」です。もっともらしく聞こえるのですが、実際はそうではありません。もちろん影響はあるのですが、本質的な原因ではないのです。
海水温上昇は100年でどれくらいかご存じでしょうか?0.7度、7度、70度という選択肢から選んでください。この質問をするとほぼ全員が7度と答えます。しかし答えは0.7度なのです。しかもこれは表面水温の話です。ごく浅い沿岸地域への影響はともかく、多くの魚が漁獲される50~200m前後の水深の温度変化は表面水温よりさらに小さいのです。
また、この微々たる海水温上昇は、日本の海の周りだけに起きているのではありません。むしろ大西洋や北極圏に近い方がわずかに進んでいるくらいです。
ところで、皆さんはノルウェーサバや、アラスカ(米国)で漁獲されるスケトウダラから生産されるタラコなどを食べたことはあるでしょうか?
もし、海水温上昇で魚が減るのであれば、これらの国々の漁獲量も減るはずです。ところがそうなってはいません。それどころか、大きな魚がたくさん獲れて資源がサステナブルになっています。
なぜおかしなことが起きるのか?それは「漁業」という最も大きな影響を与える話題を言っても得にならないので、研究者が避けているからです。
筆者は1990年から20年以上、毎年ノルウェーをはじめとする北欧諸国に魚の買付で訪問してきました。そこで学んだことは、水産資源管理に関する世界の常識と日本の常識が大きく異なることでした。科学的根拠に基づいてその差を埋めるための発信を続けることが、自分にできることだと思っています。

片野 歩 かたの・あゆむ

片野 歩

かたの・あゆむ

東京都生まれ。早稲田大学卒業。2022年東洋経済オンラインでニューウェイブ賞受賞。2015年水産物の持続可能性(サスティナビリティ)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞(政策提言部門)を受賞。
1990年より、北欧を主体とした水産物の買付業務に最前線で携わる。特に世界第2位の輸出国として成長を続けているノルウェーには、20年以上にわたり毎年訪問を続け、日本の水産業との違いを目の当たりにしてきた。海外の水産関係者などから依頼を受け、世界各地で多数の講演も行っている。
こうした経験をブログや書籍、講義等で伝え、70年振りと言われる改正漁業法(2020年施行)にも影響を与えた。科学的根拠に基づく問題点の整理と解決法の提示には、全国の漁業関係者や水産会社、政治家、行政、研究者と幅広い支持層を持つ。
Fisk Japan株式会社 https://fiskjapan.com/

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