第28回

「この川で発電、できませんかねー」

上坂 博亨
富山国際大学現代社会学部教授
全国小水力利用推進協議会代表理事
発電所建設前の河川の風景
出力160kWの発電所建屋
囲炉裏端の発電所制御室
小水力発電所内部の様子

2025年6月2日

或る日突然、大学に一人の初老の紳士がお見えになり、私に写真を見せながら話をしてくれました。それは富山県南砺市上平小瀬地区、合掌造り集落で有名な世界遺産の観光地の、さらに山奥の砂防堰堤の写真でした(写真)。富山県ならどこにでもある源流の風景です。
話によると、合掌造り集落は少子高齢化で人が減り、収入も減り、集落の維持に困窮しているとのこと。何とかして集落の維持費を捻出したいので、この川で発電して、その売電収入を集落の維持に充てたいとのことでした。再エネ電力の固定価格買取制度が始まったころの話です。
そこでともかく川の年間流量を測ってみたところ、何とかいけそうだということになり、出力160kWの小水力発電所を目指して、地域の皆さんの活動が始まりました。測量などを行い、関係各所に許可を得て、お金を借り、各種申請書を提出、発電所を建設して運転にこぎつけたのは約3年後の2016年11月です。その結果、年間に約3500万円から4000万円を売り上げる、地域住民による小水力発電所が完成しました。
小水力発電所とは一般に1000kW未満の発電所を指します。それは国のエネルギーを支えるほどの発電規模はありませんが、100人~1000人の集落の電気を賄うには十分な能力があります。原理が簡単なので、地域の皆さんが少し頑張れば地域の「マイ発電所」を作ることも夢ではありません。(福井県の池田町でもできた!)
このように地域の発電所を作る最も大きな意義は、過疎高齢化でだんだん寂しくなっていく地域に新たな希望を生み出してくれることだと思います。発電所が生み出す電力は「売電」という新しいビジネスによって地域にまとまった利益をもたらしてくれます。地域に資金がもたらされることで、人々による新しいチャレンジが始まり、目がキラキラと輝き始めます。
水力発電所は、正しく保守をすることで少なくとも50年間、100年間稼働している発電所も少なくありません。50年後と言えば2075年、日本がもうすでにカーボンニュートラルを実現している頃でしょう。100年後と言えば22世紀です。今、われわれが建設する小水力発電所が、水の恵みを受けて22世紀まで動き続け、地域の未来を作っていると考えると身の引き締まる思いです。

上坂 博亨 うえさか・ひろゆき

上坂 博亨

うえさか・ひろゆき

富山国際大学現代社会学部教授、全国小水力利用推進協議会代表理事。1957年生まれ。1987年筑波大学大学院博士課程生物科学研究科修了。同年4月に富士通株式会社入社。2000年4月に富山国際大学地域学部助教授。2004年地域学部教授。2009年子ども育成学部教授を経て、2013年4月より現職。地域エネルギー学を専門とし、富山県と北陸を中心に小水力を中心とした再生可能エネルギーの地域利用による地域社会形成に関する研究と学生指導に従事。最近は県内外の市町村におけるカーボンニュートラル推進にも取り組んでおり、地方自治体と連携して持続可能な脱炭素化計画づくりにも注力している。

第1回〜第13回

第14回〜第25回

第26回〜

連載 水を伝える
連載 水を伝える
ページの先頭に戻る