2024年3月4日
植物栽培には土が不可欠と思われがちですが、実際には水、養分、光が欠かせません。この基本を活用するのが水耕栽培です。水耕栽培は、肥料成分を溶かした養液で植物を育てる方法で、土を使用せずに行われます。例えば、県立広島大学の植物工場では、部屋の中で水耕栽培を利用して、最適な温度設定とLEDライトによる光源で野菜を育てています。
水耕栽培の最大の利点は、水の再利用と環境制御にあります。使用された水はほとんどが循環し、再利用されるため、水資源の効率的な利用が可能です。また、植物は温度などが管理された一定の環境で育つため、収穫量や品質が一定に保たれます。こうした制御された環境では、害虫の侵入や病気のリスクが減少するため、農薬の使用が不要になり、収穫された野菜は洗わずに食べられるほど清潔です。
病害虫が一度発生すると虫にとっても過ごしやすい環境なので、あっという間に踏めます。なので水耕栽培では、清潔な環境の維持が重要になります。広島大学の工場では、防塵服やエアシャワーを利用し、害虫や病原菌の侵入を防いでいます。これにより、植物の健康を守り、高品質な野菜の生産を可能にしています。
写真は、実際に大学内の植物工場で水耕栽培にて育てられているリーフレタスです。種を撒いてから約45日で収穫になりますが、写真のレタスは種を撒いてから30日ほど経ったものです。ちなみにこの後、急激に成長し、写真上部のLEDライトに付くぐらいまで大きくなります。
さらに、水耕栽培は土壌を必要としないため、都市部や限られたスペースでの農業に最適です。実際、異常気象などによる影響を受けにくいため、ビルの一室やスーパーマーケット隣接地での栽培が行われており、安定した野菜供給に貢献しています。
また、水耕栽培では、大根やジャガイモなどの土中で育つ野菜も含め、多種多様な野菜を生産することができます。トマトやピーマンといった実を付ける野菜も、水耕栽培の技術によって高品質で生産されています。
水耕栽培は、異常気象に強い、効率的な水の使用、環境制御、農薬不要のクリーンな生産という点で、新しい農業の形として注目されています。この植物工場はまだマイナーかもしれませんが、未来の農業を体感するために、一度見学してみてください。農業の将来性と環境に優しい生産方法を目の当たりにすることで、私たちの食生活や環境への認識が変わるかもしれません。
谷垣 悠介
たにがき・ゆうすけ県立広島大学生物資源科学部地域資源開発学科講師。1985年生まれ。2014年9月近畿大学大学院博士前期課程 生物理工学研究科生物工学専攻修了。2014年10月~2019年4月大阪府立大学大学院工学研究科研究員、2019年5月~2020年3月大阪府立大学大学院工学研究科特認助教を経て、2020年4月より現職。現在は植物が体内で持つ時間 (体内時計)を基礎に植物間の相互作用を研究。特に植物の動きから見られるさまざまな応答を画像から解析し、その動きの変化から植物の会話を聞くことができないかを研究している。