第9回

土佐和紙と仁淀川

田邊 翔
いの町紙の博物館学芸員
仁淀川と紙のこいのぼり
仁淀川と紙のこいのぼり
紙漉き
紙漉き

2022年9月26日

高知県の中央部を北から南に流れ、自然環境に恵まれた清流仁淀川は、いの町はじめ流域市町村のシンボルであり、県民の憩いの場として子どもからお年寄りまで多くの人に親しまれている。毎年ゴールデンウイークに開催される「仁淀川紙のこいのぼり」は不織布で作られた色とりどりのこいのぼりが仁淀川をゆうゆうと泳ぎ、いの町を代表する風情である。
近年の国土交通省の水質現況調査においても水質良好な全国一級河川に連続して選ばれており、「仁淀ブルー」のフレーズに代表されるように、清流仁淀川の注目度は高まってきている。
土佐和紙は1000年以上の歴史があるといわれ、いの町は古くから土佐和紙生産の中心地として栄えてきた。その要因には仁淀川との関わりが欠かせない。
一般的に紙を製造するときには大量の水が必要である。手漉き和紙づくりにおいても紙漉きだけでなく、原料の水洗いやさらし、ちり取りの工程など、あらゆる工程で大量の水が必要で、仁淀川の豊富な水は欠かせない。紙の種類によってもかなりの差があるが、一般的に製品1tを製造するのに当たり、新聞用紙は50t、上質紙は150tほどの水が必要であるのに対し、和紙は250tもの水が必要であることからも分かるだろう。
また、水量だけではなく、不純物の少ない良質な水質も重要である。前出の工程はもちろん、漉き槽に混ぜ合わせる「のり」の効き具合も水質に左右される。仁淀川の水質はこの「のり」にも適しており、技術の必要な薄い紙づくりにおいても効果を発揮した。
このように、いの町が和紙で栄えた理由としての出発点として仁淀川の存在があるといえる。それを前提として良質な原料、紙づくりや道具づくりの技術が育まれてきた。紙の博物館の使命の一つとして、大切に受け継がれてきた仁淀川・土佐和紙について改めて知ってもらい、未来へ伝えていくことが求められる。

田邊 翔 たなべ・しょう

田邊 翔

たなべ・しょう

いの町紙の博物館学芸員。平成25年いの町役場入庁。平成31年より現職。土佐和紙に関する企画展・イベントなどを担当。

いの町紙の博物館
いの町紙の博物館は、伝統的工芸品「土佐和紙」の振興を図るため、1985年に開館。常設展として、和紙の歴史と文化、原料・用具などを展示しているほか、手すき実演・体験コーナー、販売コーナーを設けている。展示室では、文化活動の発表の場や国際的な展覧会など、企画展・特別展を随時開催している。

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