第4回

水の重要性

田中 伸治
月桂冠株式会社総務部広報課長
酒蔵沿いの水辺の風景(濠川からの月桂冠内蔵酒造場眺望)
酒蔵沿いの水辺の風景(濠川からの月桂冠内蔵酒造場眺望)

2022年8月22日

大学の農学部で学んだ私にとって、専門科目の基本となる『生物学』の初講義で塚原寅次教授(当時)が「生物にとっての水の特性と重要性」として説かれた内容が大変印象に残っている。それは次の10項目から成る。

▼水は生物体の主成分で、その10~20%を失うと生命の維持ができなくなる
▼水は生物の環境としても、物理化学的な大小の変化をやわらげる性質がある
▼水は生物の故郷といわれ、現在でも水中の生物の種類が、陸上よりはるかに多い
▼水は溶媒として最も優れ、生物の栄養物質、排出物質の運搬に役立っている
▼水は表面張力が大きく、広い反応面積を提供し、さらに水自身はH⁺、OH⁺に解離して化学反応を促進する
▼水は輻射線のうち、波長の短いものより、長いものをよく透過し、その潜熱・比熱が大きいので、局所的な急激な温度変化を防ぐ
▼水の密度は4℃において最大で、氷になると容積が増すので浮上して、生物はその下で生活できる利点がある
▼水は誘電率が大きいので、溶ける物質をイオンに解離し、自らも会合しやすい
▼水は高分子の有機物、ことにタンパク質と結合して沈殿を妨げ、30~40℃でタンパク質に含まれた水は、ほぼ規則的に分子が配列して準結晶状態になり、タンパク質とともに生物体の構造の基礎をつくる
▼タンパク質と核酸と結合している水は、これら有機分子の励起状態の寿命を長く保つ働きを持っている。

麹菌や酵母といった微生物を駆使して醸す日本酒に、水の存在は欠かせない。酒造りの工程や操作には、水の基本的な特性や機作の一つ一つが関係している。
私どもが本社を置く京都・伏見、その地下には酒造りに適した綺麗な水が豊富に存在し、軟水系の水質により、はんなりとした風味を育んでいる。それも水の媒介があってこそのこと。生物にとって好ましい環境のもとになる水の特性を活かして、時代時代に応じた創意工夫の積み重ねで、美味しさを生み出す努力が今も連綿と続いている。

平井 幸弘 ひらい・ゆきひろ

田中 伸治

たなか・しんじ

月桂冠株式会社総務部広報課長。1987年、東京農業大学(農学部醸造学科)を卒業し、月桂冠株式会社に入社。生産管理、技術、醸造に携わった後、広報担当となり、2015年から現職。

その間、2003年に同志社大学大学院(総合政策科学研究科・博士前期課程)を修了(政策科学修士)。現在、企業広報業務を統括し、一方で大学での講義も担当するなどで情報発信を継続している。

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連載 水を伝える
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