日常の水・非日常の水
宇宙科学研究所地球外物質研究グループ主任研究開発員
2022年8月29日
ゴクゴクゴクと水を飲む、ザーザーザーとシャワーを浴びる、日常の水。海は僕らの日常だろうか、非日常だろうか。僕はこれまで非日常と言えるような水を学んだので、紹介したい。
大学では海の底、堆積物を調査した。沖縄の砂浜のように小さな生物の殻が海底にも降り積もり、堆積すれば地層となる。観察すると、地層ごとにさまざまな種の殻が見つかる。温暖な海水を好む種と寒冷を好む群の入れ替わりも見られる。昔の海が温暖か寒暖か、こんな観察から推測する。
殻成分の分析から、昔の氷床の増減も推測できる。氷河期などの寒冷な時期は氷床が多い。氷床は海水中のH2Oからできている。世の中には重いOが少し存在している。軽いOのほうが氷になりやすいので、氷床が多くなると海水には重いOが多くなる。海水成分を取り込む生物の微化石を調べると、Oの重い軽いの比率を調べることができるのだ。
社会人生活では船に乗ることが多く、海難事故の訓練もした。喉が渇いても海水は飲んではいけない、余計に喉が渇き脱水もする。海は決して僕らにやさしくない。やさしくないけど、海は僕ら生命の誕生の場所であったのかもしれない。そもそも海はどこから来たのだろうか。地球形成時に集積した微惑星によるだとか、繰り返し衝突した隕石がもたらしたという説がある。これらは岩石に含まれている水だ。
現在、僕はJAXAの小惑星探査機「はやぶさ」と「はやぶさ2」がそれぞれ、小惑星イトカワとリュウグウから持ち帰った砂粒(貴重な試料!)を管理する仕事をしている。専門研究者によるリュウグウ試料の分析は現在進行中で、やはり有機物(アミノ酸)や水を含んでいたという研究結果がもたらされている。
海、宇宙からもたらされた水。宇宙に水はありふれているが、多くの場所では氷であり、液体の水は珍しい。地球の海はザーザーザーと波を打つ。僕らにとっては日常でも、宇宙的にとっては非日常と言えるのだろう。
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所地球外物質研究グループ主任研究開発員。2002年、高知大学理学研究科地質学専攻修士課程修了。2004年、株式会社マリン・ワーク・ジャパン入社。同社において、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)や国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究支援業務として、地球深部探査船「ちきゅう」乗船や「はやぶさ」キュレーション業務を担う。2019年にJAXA入社、現在に至る。
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)
第1回
トンボで守る食の安全
第2回
水塊が生まれた記憶
第3回
汽水、匂い立つ水辺で
第4回
水の重要性
第5回
日常の水・非日常の水
第6回
水の惑星?
第7回
生命の「動的平衡」と水
第8回
水の都?東京のひみつ
第9回
土佐和紙と仁淀川
第10回
人が育む阿蘇の地下水
第11回
経験したことのない大雨と事前防災
第12回
水と医療設備の切っても切れない関係
第13回
カンボジアが水の危機に直面していると考えたことはありますか?
第14回
水利秩序の変化と昔話
第15回
奇跡の泉
第16回
完全雨水生活で気づく日常生活の問題点
第17回
水と演劇
第18回
コーヒーと水の関係
第19回
山の上の植物園
~牧野博士が遺した悩みのタネ~
第20回
山の人
第21回
「水」環境のまち
第22回
気象レーダーと雨粒の形
第23回
水は数十億年の地球の恵み
第24回
知的好奇心を探求する海
第25回
水で育つ野菜