第16回

完全雨水生活で気づく
日常生活の問題点

笠井 利浩
福井工業大学環境情報学部教授
長崎県五島列島南東部に位置する離島・赤島
長崎県五島列島南東部に位置する離島・赤島
海水での米研ぎ
海水での米研ぎ
島内全戸に雨水タンクを設置
島内全戸に雨水タンクを設置
雨水風呂
雨水風呂
伊勢海老をはじめとした豊かな海産物が魅力
伊勢海老をはじめとした豊かな海産物が魅力
雨水生活体験の募集チラシ
雨水生活体験の募集チラシ

2023年6月1日

長崎県五島市赤島は、国内でも数少ない完全雨水生活を営む島である。昭和半ばに400名以上の島民が漁業を営み、暮らしていた記録があるが、現在の島民数は数名にまで減っている。
「街で雨をためて活かすことが普通の社会にする」を目標に活動を行っている福井工業大学笠井研究室では、2017年から3年の歳月をかけてこの島の水問題緩和のため「雨水を水源とする小規模給水システム」を開発・設置する活動〝赤島活性化プロジェクト〟(活動名:しまあめラボ)を行ってきた。
島の生活用水利用状況調査で明らかになった島民の水使用量は1人1日当たり約60ℓ(東京都水道局調べでは約200ℓ/人/日)。WHOが提唱する人が健康に暮らすために必要なキレイな水の量は50~100ℓ/人/日であり、赤島ではその最低水量に近い、さらに雨水で生活を営んでいるという驚きの事実が分かった。
数年間にわたる活動期間中、多い年には年間2カ月以上、島に滞在していたが、その島での体験から普段の生活では気付かないことにも気付かされた。赤島には基本インフラである水道が無いし、店はおろか自販機もない。島民数が少ないこともあり、聞こえてくるのは風と波の音、稀に鳶の鳴き声と遠くに聞こえる漁船の音程度である。
当初、私はこの島には何もないと思っていた。しかし、幾度にわたる福井と赤島の道中で通過する博多や大阪で感じた「モノとサービスに溢れた生活があまりにも〝普通〟である」という気付きがあった。その体験をもとに福井の小中高生を対象に究極の体験型環境教育「雨水生活体験」を行い、参加者からも私が感じたのと同じ感想を聞いたことが嬉しかった。
現在、地球温暖化は世界的に最も大きな問題となっている。それを引き起こすのは私たちが〝普通〟だと思っている日々の生活スタイルである。しかし、〝普通〟であるためにそれに気付かない。当初「何もない」と思っていた赤島には「何もないということが有った!」。

笠井 利浩 かさい・としひろ

笠井 利浩

かさい・としひろ

1968年京都府生まれ。1995年山口大学工学研究科物質工学専攻博士課程修了。博士(工学)。現在、日本雨水資源化システム学会理事・広報委員長、日本建築学会あまみずのこれからを考える小委員会主査、NPO法人雨水市民の会理事を務める。自ら始めた稲作を通じて雨水に目覚め、雨水活用の技術開発から環境教育を含めた普及まで幅広く活動中。日本国内で雨水が普通に利用される社会の実現を目指している。

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連載 水を伝える
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