水中点検の安全化・高度化を実現
水中ドローン 「FF1/FF2」
池田 浩史氏
■世代を超えた資産活用のために
令和元年の改正水道法の施行により、適切な資産管理が水道事業者の義務に位置付けられました。そのためには的確かつ効率的な現状把握がキーになりますが、物価上昇が料金収入の減少や給水原価の上昇を招き、多くの事業体は苦しい財政運営を強いられています。そうした中で職員数は減少し、財政的にも人的にもリソースの不足は顕著です。
こうした課題を解決するため、NJSグループは水コンサルタントとして培ってきた企画・調査・事業計画・施設設計・運営に関する幅広い知見・技術と経験を生かし、水道施設をはじめとする各種インフラの点検調査に最適な技術を開発しています。2021年には、ロボティクス技術とデジタル解析技術に特化し、NJSグループの知見と総合力を生かしインフラ施設の点検調査を主な事業とするFINDi(ファインドアイ)という会社を設立しました。「ロボティクスを活用したDX」の取組みに力を入れ、資産管理に係る業務の安全化と高度化を実現しています。
■水中調査を巡る課題
取水から導水、浄水、配水に至るまでの水道施設には、水路や水槽・タンクといった水中構造物や水中に配備されている機器が数多く存在します。これらの長寿命化を目的とした状態把握をする際に、抜水ができない状況が多くあり、そうした状況下では潜水士による点検調査を行うのが一般的です。
しかし、作業潜水士は一般的なダイバーとは異なり、なり手が少なく高齢化が進んでいるのが現状です。また、労働安全衛生の面から長時間潜り続けるわけにはいきません。さらに、水道施設における調査を行う場合は、潜水技術のみならず施設についての知識熟練も必要となり、人材育成の面からも課題が多いと考えられ、安全かつ効率的な点検手法が求められています。
そこでNJSでは、グループ会社のFINDiが開発した独自の水中ドローン「FF1」を活用した点検調査および機能診断を提案しています。
水中ドローンの活用により解決される課題は主に次の3点です。
①水中作業による人命リスク
②水中状況のリアルタイム・高精度な調査
③水中構造物の計測
■FF1の開発
水中ドローンとはROV(Remotely Operated Vehicle:遠隔操作機)を指しており、遠隔操作型の無人潜水機、いわゆる水中ロボットの一つです。かつての無人潜水機は海洋探査、サルベージなどを目的としたものが多く、深海のような過酷な環境においても耐えられるように、多大な開発費をかけたものがほとんどでした。
近年、飛行型ドローンの技術革新がこれまでにない迅速なペースで進んでいます。それらの制御技術などを応用することで、水中ドローンを低予算で開発することができるようになりました。水中ドローンの機体には、制御をつかさどるフライトコントローラー、慣性や水深計測を行うセンサ、推進器としてスラスターが搭載されています。加えて、地上にいる操縦者へ水中の映像を送るためのカメラ、暗い環境下で周囲を照らすライト、映像通信装置を搭載すれば、汎用性の高い水中ドローンとなります。
しかし水道インフラ施設の点検に使うとなると、より鮮明な画像が求められる上に、常に満水ではない施設の水面上の部分、いわゆる気相部の撮影も必要です。さらに濁水環境下での調査や構造の計測が求められることがあり、市販の水中ドローンでは機能面で不十分な点があります。
そういった課題をクリアするべく、水インフラの点検調査に必要な機能と、扱いやすさを両立させたのがFF1です。
■水インフラに特化
先に挙げた水中調査における課題のうち、①水中作業による人命リスクについては、水中ドローンの活用により解決ができます。②の水中状況の確認は、リアルタイム性と画像の鮮明度が大きく問われることとなります。まずリアルタイム性については、水道施設の専門家が操縦者と一緒に地上で現在撮影している映像を見ることにより、入念に点検をしなければいけない箇所を指示し、思い通りの画角で確認をすることが望まれます。そのためにフルHD(1080p)の映像がケーブルを介してほぼ通信遅延がない状態で見られる設計としました。また、水面と天井との間の気相部でも同様に画像データの取得が必要となります。そこでFF1は、機体の頭上にリアルタイムに映像を地上に通信できるカメラ、照明用のライトを搭載しています。
フルHDの画像は構造物の状況を把握するためには十分に鮮明なものですが、さらに高度な撮影が必要とされる場面にも対応できるよう、4K(2160p)動画撮影カメラや360度を一度に撮影できる全天球カメラを搭載できる「マルチプラットフォーム」を独自に開発しました。
多くの水中ドローンは重量のある搭載物が水面上に出た際に、比重の違いからバランスを崩す現象がありますが、FF1は浮力材やマルチプラットフォームの設計を最適化することで、機体を安定させて撮影を続けることができます。上位モデルと位置付けているFF2は、FF1のコンセプトをもとにさらに多くの搭載物に対応でき、一度に長時間の運用をできるよう筐体設計を全面的に見直しました。現場環境により最適な水中ドローンを適用できるようにしました。
池状構造物や水路の水は濁度が高く見通しが悪いことも少なくありません。そうした場合に備え音響イメージングソナーを標準搭載しました。これにより、可視映像では見えない状態であっても、60m先までの壁面をモニター上に図化することが可能です。見通しが悪くても可視映像にも映るところまで近接して点検調査を行うことができます。
最後に③の水中構造物の計測については、音響ソナーを用いることで水平断面や縦断断面の計測ができます。また、マルチビームソナーやサイドスキャンソナーを載せ替えることで、構造物や沈澱物の形状を把握することや、堆積物の堆積状況を計測することも可能となります。
加えて、FF1は公益社団法人日本水道協会が定める51項目の溶出試験を実施しており、すべての項目において基準値以内であることを確認しています。これにより配水池のように水質管理が問われるような施設においても本水中ドローンを活用することができるようになりました。
このように、水インフラの点検調査に特化させ、必要な撮影性能、潜水士では困難があった調査を可能にしたことで、安全かつ効率的に、より高度な調査を実現できるようになりました。
■データフローの構築へ
水中ドローン事業は2021年5月のFINDi設立を機に立ち上がり、点検調査現場での活用がスタートしました。水道分野では配水池や取水・導水・放流施設を中心に、水道分野以外にも電力、農業、船舶分野においても点検調査の仕事を数多く実施しています。
特に配水池では、水運用上の制約などから「水を抜かずに内面を調査したい」というニーズがある場面で役立つと考えられます。また、暗く濁度が高い取水口や導水トンネルなどの水中でも安定した撮影が可能で、よく「濁っていてもこれだけしっかり映っているとは驚いた、ここまで見えると十分だ」という感想をいただきます。
NJSグループの総力を挙げてインスペクション(点検・調査・診断)事業に取り組む中では、ドローン以外のデジタル技術も積極的に取り込みつつあります。施設等の3Dモデル化技術はすでに確立し、これにより修繕・更新・日常点検・維持管理などの計画策定や運用の効率化が可能です。また、点検調査ツールで取得したデータはクラウド資産管理システム「SkyScraper」(スカイスクレイパー)で管理され、解析診断・更新需要予想・運転管理などの最適化に活用できます。
NJSのインフラ管理サービスは、取得・解析・活用という一連のデータフローを総合的に構築するものです。これを今後もさらに発展させ、水道サービスのサステナビリティと質の向上に貢献していきます。
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