更新設計から施工監理を担うパートナーとして
安全性・事業費縮減を満足する施設設計の提案
村上 優希氏
■災害対策、能力縮小も考慮した施設更新
浄水場をはじめとする全国の水道施設の多くは高度経済成長期に建設され、老朽化が進行し、更新時期を迎えています。また、これらの施設は水需要の増大に合わせて計画・建設されたことから、その後の人口の伸び悩みや減少による水需要の減少によって、現有施設能力と水需要の間に乖離が生じているのが実態です。こうした中で水道施設の更新・耐震化を進めるに当たっては、事業の効率化等の観点からも、施設の統廃合やダウンサイジングをいかに考慮するかが水道事業体にとっての課題となっています。
他方、南海トラフ地震や首都直下型地震等の地震災害、局地的豪雨による浸水災害や土砂災害によって水道施設が被災するケースが増加しており、水道施設の災害対策の推進も急務となっています。
全国的に料金収入が減少傾向にあり、投資の財源が限られた中で更新・耐震化を合理的に進めていくために、当社では水需要予測に基づく施設能力の設定や施設配置、整備手順など、長期的な視点に立った整備方法について十分考慮するとともに、安定性の確保を前提とした施設の最適化を図る提案を行っています。
■安全性確保と事業費低減を両立
浄水場の更新を行う際には、水道水の安定供給を維持したまま更新工事を並行して行う必要があります。ただ、新たに更新用地を確保して浄水場を更新する方法では、新候補地の選定から用地確保、新候補地までの管路整備等が付随するため、事業のハードルが高くなってしまうことが予想されることから、同一敷地内で更新が行えることが最も合理的になると考えられます。そこで過去の事例では、他系統からのバックアップ配水によって一時的に既設浄水場を停止し更新を行う、段階的な更新によるスクラップアンドビルドを行うといった提案を行い、同一敷地内での更新を実現してきました。
ただ、同一敷地内での施設更新であっても、既設浄水場や周辺の状況が建設当時と現在で大きく変化していることや、関係法令や基準の見直し等もあり、更新が難しい施設も多く、ケースバイケースの対応が求められるといえます。これらの条件を満足していくために、利害関係者との綿密な協議を行い、最適な施設の構造、設置形態、施工方法などを総合的に検討し、最も合理的な設計を行う体制を整えています。
同一敷地内での浄水場の更新設計業務を担当した一例を紹介します。当該事例においては、他系統からの配水バックアップを受けられたことから、まず既存浄水場の運転を停止し、解体撤去工事を行い一度更地にしたのち、新設構造物の築造を行うというものでした。しかし、浄水場付近の地盤が悪いことに加えて、鉄道軌道および河川に挟まれた場所に立地していたことから、設計に係る条件が多く非常に大変でした。このうち河川については、浸水シミュレーション結果により、河川氾濫が起こった場合に浄水場が約4.7mの高さまで浸水することとなっていました。
そこで、これらの条件を加味した上で考えうる浸水対策を比較検討しました。その結果、経済性や本現場への適用性、実現可能性等の観点から、軽度な場内のかさ上げに加え、各構造物での対応(電気設備や機械設備といった重要な機器を浸水想定高さよりも高い2階に設置し、1階は無窓階にする)を行うこととしました。これにより、災害時の安全性の確保と事業費の低減を両立させることができました。なお、将来的には浄水場自体のかさ上げを行うことも視野には入れているものの、造成工事を行うと鉄道軌道に土圧がかかることから鉄道事業者等との調整が必要になるほか、浄水場の周囲に擁壁を設置する場合には工期の長期化や事業費の増加が見込まれることから、今回は周辺環境への影響を最小限にすることを目的に、前述のような設計としました。
鉄道に関しては、施工に伴う軌道への影響を最小限に抑える工法を複数選定し、その影響を二次元FEM解析(土木構造物の築造による荷重が引き起こす地盤のゆるみなどの土質の不規則な変状を、土質や構造物の重量といった現場の情報や条件を入力することで分析できる解析技術)により評価することで、適用可能な工法を採用しました。
■特性を吟味したオーダーメイドの提案
水道施設の耐震化に関連して、令和4年度に「水道施設耐震工法・解説2022年版」が発刊されました。この新しい指針では、地盤や構造物の特性等を考慮したより合理的な計算が可能となる「動的解析」が推奨されています。当社ではこれまで、地形や地層の変化が激しい地盤や液状化地盤に対し、二次元FEMモデルによる動的解析を行ってきました。動的解析では、従来の静的解析では考慮できなかった地形や地層の変化、液状化による地震動の増幅や減衰を適切に評価することができることから、合理的な設計提案を行えるようになりました。
一方で、動的解析は従来手法に比べ費用や時間を多く必要とすることから、特に中小規模の事業体から「水道施設が小規模のため、動的解析の実施が必要なのか」といったご相談を受けることが多くなりました。構造物や地盤の特性によっては、従来手法でも動的解析と同等の精度の解析結果を得られることもあることから、施設の状況や地盤の状況に合わせて適切な手法を選定し、合理的な耐震化施策の提案を行っています。
当社では設計業務だけではなく、施工監理業務も手掛けておりますので、工事の品質確保、工程管理、不測の事態に対する解決策の提案も行うことが可能です。例えば施工現場では「いざ現場を掘ってみると大きな礫が出てきたので、工程通りに工事が進められない」というような事態がしばしば発生します。設計段階で使用する土質等の情報はあくまで事前のボーリング調査等から得られたピンポイントな地点の情報であって、実際の現場の土質は一様とは限らないのです。現場ではこのような不測の事態が付き物で、そういった場合に、極力大きな変更が生じないような施工方法の検討や各種計算書の見直しなどを行い、事業体と施工業者と密に調整し迅速に対応できるようにしております。また、事業を進める上で必要となる申請書類の作成、利害関係者との調整などをお任せいただくことができます。
近年、ベテラン職員の退職や高齢化に伴う水道事業体内部での専門知識、経験、対応力等の継承が大きな課題となっています。そうした中で、事業体の皆さまの負担を少しでも軽減できるようなパートナーとして、今後も業務に努めていきます。
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