連載 水を伝える

日本水道新聞社は2024年で創業70周年を迎えました。本連載では、約70年間にわたる当社の報道について、日本水道新聞、日本下水道新聞の過去の紙面を通じて、印象的な出来事を回顧していきます。70周年という節目を迎えるに当たり、創刊号からこれまでの紙面を振り返ることで、読者の皆さまに当社の報道を通じた上下水道史を伝えるとともに、われわれも歴史の教訓から学び、次の10年に向けて、新たな一歩を踏み出すきっかけとしたいと考えています。

第13回 汚職事件で設計・施工の分離論 コンサルタントブーム呼ぶ?

昭和34年_03月09日 日本水道新聞_第0244号

2022年12月16日

昭和33秋に水道工事を巡る大汚職事件が発覚しました。東京地検特捜部が取り扱った事件で、贈賄側が太平建設工業(本社・東京)、収賄側は愛知県碧南市、富山市工水道、武蔵野市、吉備上水道組合、和気町、鳥取市、新潟県小千谷市、柏崎市、河内市 (太平建設以外)と全国的に飛び火し、市長、助役、議員、水道局・課長が芋づる式に逮捕されました。水道界始まって以来といわれた大汚職事件でした。
当時は、水道工事は特殊技術を要する仕事であると認識され、一方では、工事費の調達が困難なことから立替工事が行われ、また工事会社が設計も工事も一括して請負う—つまり、「設計・施工一体工事」が一般的で、この癒着構造が汚職の温床であるとの指摘を受け、汚職を防止するためには「設計と施工は分離すべし!!」の論調や意見が強くなりました。
この設計・施工分理論は厚生省水道課の意向であり、学界筋からも支持されていた対応策でしたが、地方自治を指導する自治庁も同意見で、2月27日には異例の「地方公共団体における綱紀の粛正」といった事務次官通達を出したほどでした。

昭和34年3月9日付の日本水道新聞1面には、小林与三自治次官への一問一答が掲載されています。その要旨は次の通りです。
①立替工事を行うことになり、随意契約方式をとるといった過程において汚職の因子があるのではないか、②見積りとか、原価計算なり、設計単価なりを科学的、または技術的に適正に出せる研究が必要と思う。 ③設計と工事の分離といった在り方なども検討されるべきで、これなどは水道協会なりがやらなければならないのではないか。だんだん技術力など伴わない中小水道工事がふえると、かような事件の根絶がむずかしくなって来るような気もするので、この機会に根本的に批判し未然に防ぐべきである。 ④現場ごとに設計と工事検査の厳正さを確立することの必要も痛感する。(原文ママ)

かくして、水道汚職事件を基点に、「設計と施工の分理論」がキーポイントとして広く認識され、行政や事業経営の面においても適用・実施されるようになりました。
一方では、技術士法の制定・公布があり、水道事業の本格的な建設・拡張期を前にして「設計・施工分理論」は、汚職などを防ぐ透明性のある新しいルールとして脚光を浴び、期待されることになりました。
こうした行政当局や事業体側の動き、あるいは学界筋の主張などを受けて、設計・施工の一括工事を行ってきた水道建設専門会社、またその団体である水交倶楽部サイドから設計・コンサルタント会社設立の動きが出て、具体化されていきました。
その先達となったのが日本水道コンサルタント(現日水コン)や東京設計事務所であり、この2社の設立を契機に設計・コンサルタント業界は第1期の設計・コンサルタント会社設立ブーム?時代に突入しました。
それ以前には、日本上下水道設計や堀江水道技術研究所(現東洋設計事務所の前身)等が先駆的な職人養成会社か技術顧問会社のような意味で存在していましたが、昭和34年の水道汚職事件―防止策を契機に、民間企業としての設計・コンサルタント会社が本格的に誕生したと評されています。
以来40年余年、水道の建設・拡張期、あるいは下水道の疾風怒濤的な促進整備期の波に乗って進展し、上下水道コンサルタント界は大市場を構成するまでに育っていきました。

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