連載 水を伝える

日本水道新聞社は2024年で創業70周年を迎えました。本連載では、約70年間にわたる当社の報道について、日本水道新聞、日本下水道新聞の過去の紙面を通じて、印象的な出来事を回顧していきます。70周年という節目を迎えるに当たり、創刊号からこれまでの紙面を振り返ることで、読者の皆さまに当社の報道を通じた上下水道史を伝えるとともに、われわれも歴史の教訓から学び、次の10年に向けて、新たな一歩を踏み出すきっかけとしたいと考えています。

第7回 幕を開けた―水道行政三分割 総合水行政を砕く

昭和31年_11月22日 日本水道新聞_第0126号
昭和32年_01月17日 日本水道新聞_第0134号

2022年09月26日

石橋湛山内閣は昭和32年1月18日の閣議で、「水道行政の取扱いについて」という画期的な『水道行政三分割の閣議決定』を行い、セパレートされた形でのそれぞれの新しい法制や行財政展開の幕が開けました。

論説 水道一元化の行方(昭和31年11月22日付 日本水道新聞)
水道行政の一元化問題は、過般の日本水道協会の総会でも最高潮の場面を形成する状況であつたが、関係各省庁でも世論の赴くところ問題解決への動きが漸く活潑化している様相が見受けられるのは、水道行政の伸長のため喜ぶべきことである。
目下その現実的な解決方策の一つとして、最も有力に採り上げられていると見られるのは、所謂三分割案、即ち上水道は厚生省に、 下水道は建設省に、工業用水道は通産省にそれぞれ分割して一元化しようとする案で、一度は閣議の諒解事項とまでなりながら、流れたものである。(中略)水道界の要望していた一元化は、(中略)上下水道を一本にした現在の形での一元化であつた筈である。(中略)
今日までこの問題がかくも、もつれにもつれて来ているのは、双方に決定的なきめ手がないということである。(中略)それぞれのバツクがわいのわいのと応援態勢を布いているから、関係当事者としては、打つ手なしという状況に追いこまれているのが現実の姿である。
こうした歴史と背景を持つ事案を円滑に処理しようとすれば、も早や理論斗争ではかたづかない。いい意味での取引の外途なしということは、争うべからざる事実である。(中略)
ギブ、エンド、テイクはこの世の常道だから、取引で解決することには賛成であるが(中略)大局的判断に立つて、よりよき取引をすることに思慮を費さないか、努力を払わないかというのだ。(中略)
よりよき取引をなすよう関係者の再考を促すに止めて置く。(原文ママ)

こうした中、2カ月後に出た閣議決定内容は、
上下水道行政の所管を明確にしその運営の合理化、能率化をはかり、かつ上下水道の画期的拡充を期するため、右の措置を講ずるものとする。
一、上水道に関する行政は、厚生省の所管とすること。
二、下水道に関する行政は、建設省の所管とすること。ただし、終末処理場については、厚生省の所管とすること。
三、工業用水道については通産省の所管とすること。
四、なお水道事業の整備拡充を図るため所要の措置を講ずるものとすること。
といったような簡潔なものでしたが、昭和23年に建設省水道課(技術系)と厚生省水道課(事務・衛生系)が水道と下水道の行政と共管して縄張り争いをし、 建設省と通産省が工水道の主導権を巡って争っていただけに、終止符を打ったこの閣議決定は画期的なことでした。
とはいえ、下水道行政について管きょ・ポンプ場は建設省、終末処理場系は厚生省とした〝腹切り分断行政〟は下水道事業の本義を否定するもので、下水道の分断は常識を逸脱するものであると地方公共団体等から強い批判を浴びました。

こうした中、日本水道新聞は、「管渠と処理場は一体的であるべきである」と主張しました。特に、厚生省の一部幹部が、終末処理場行政をし尿処理行政とリンクして、法制化を試みた時には、強い論難を展開し、その阻止に一役買うこととなりました。
閣議決定で水道行政を専管することになった厚生省は水道条例と新しい水道法(昭和32年)に全面改正して、 建設・拡張時代に対応した水道行政を展開することとなりました。
建設省は下水道課を設け、 下水道法(昭和33年)を制定して下水道行政の推進を図りましたが、終末処理場が厚生省にあるため、統一的な行政展開が渋滞することがネックでした。
このような不合理な行政は、昭和42年に行政管理庁の勧告に基づいて、「終末処理場行政が建設省に一元化するまで」 続きました。
通産省は〝棚ぼた式〟に工水道を所管することになり、地盤沈下対策としての地下水汲上げ制限の代替工水道や工業立地の先導役としての工水道を経済の高度成長策とリンクして、積極的に進めました。
このような「タテ割り三分割行政化」は、当時の凄まじいばかりの縄張り争いに一応の決着を見たものとして評価できますが、これが行政権限や補助金制度を伴って硬直し、国民的視野に立った国益的で合理的な総合水行政といった分野の開拓を遠いものにしたともいえます。

昭和32年1月17日付の日本水道新聞では、「水道行政一元化急轉解決」 「三分割遂に実現 下水道は建設、厚生で分断」の大見出し、補助見出しでは「晴天のへきれき、会談は極秘のうちに」と報じ、水道行政については一歩前進と受け止め、下水道については「全面的に建設省の所管にならないのでは筋が通らない」 と、分断行政を強く批判しました。

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