連載 水を伝える

日本水道新聞社は2024年で創業70周年を迎えました。本連載では、約70年間にわたる当社の報道について、日本水道新聞、日本下水道新聞の過去の紙面を通じて、印象的な出来事を回顧していきます。70周年という節目を迎えるに当たり、創刊号からこれまでの紙面を振り返ることで、読者の皆さまに当社の報道を通じた上下水道史を伝えるとともに、われわれも歴史の教訓から学び、次の10年に向けて、新たな一歩を踏み出すきっかけとしたいと考えています。

第39回 日本下水道新聞創刊30年 「市民の下水道」を掲げ

平成11年_04月26日 日本下水道新聞_第1479号

2024年1月26日

この二十年ほどの間に国(政府)主導の現代下水道の建設・促進体制ができ、これを基軸に大いに発展して来たことは周知の通りである。
そのキーポイントは〝国庫補助金制度の確立とその拡充〟と集約しえるわけであるが、それは経済の高度成長に伴う国の財政力の向上に負うものであり、事業主体者である地方公共団体やユーザーである市民・国民についても同様なことが言えるであろう。
つまり「国貧しくして下水道振わず・国豊かになりて下水道伸びる」という定説を裏付けたわけであるが、同時に、財政事情や政治情勢によって、下水道施策の展開が左右されるという事実も実証済みであることから、こうした史実が歴史認識として記憶され、今後の展開に資するよう望まれる。
(中略)平成11年度の下水道関係政府予算は国費一兆一千二百九十四億円、総事業費三兆一千三百七十七億円とカウントされているが、これに単独事業(費)も加わって「下水道工事」の看板が全国各地に立てられ、下水道の普及・促進を強く印象づけている。
こうした普及・促進は強いニーズや正当な施策に裏付けられて進められているのだが、地方分権論や地方の時代論が進められている一方では、地方財政が厳しい局面を迎えていることから、下水道事業もまた、こうしたときの流れや要請に応じて自己改革がなされなければなるまい。
建設・整備段階から供用開始を経て、経営管理に移行する下水道事業が急速に増え、また、財政運営に知恵を要する事業が増えて行くであろうから、健全な経営管理のための〝二十一世紀型の下水道財政方式〟が知恵を絞って編み出される必要を痛感すると同時に、これには下水道使用料(金)のあり方や、高使用料(金)の平準化、更には、自助努力的な展望や要因を盛り込んだ斬新的な財政方式が期待されよう。
また、巨額の資金が投下されて下水道の施設が整備され、所要の機能を発揮しているのであるが、残念ながら、その割には投資効果は一般的に認識、評価されていないし、 知られてもいないように感じられる。

それは、下水道整備促進の論理が「先進諸国に比較して日本の下水道普及率はこんなに低い。だから……」といった低普及率をバネにした〝追いつけ論〟に拠っているためと推察されるが、これを克服して、巨額の資金を毎年投入して下水道を整備したことにより、魚が戻ったとか、汚濁の川が清流になったとか、豪雨時の浸水がなく快適になったとか、水洗トイレができ孫が来るようになったとか、そういった、投資効果を前面に打ち出し、これを積極的にアピールして、下水道予算の確保や下水道の着手促進――普及促進に資すべきではなかろうかと考える。

わが国の現代下水道(事業)は三十~四十年の歳月を経て、普及率では中進国的であるが、国際的には高レベルにランクされるほどの成果をあげて来たと理解される。が、その主役を果たしたのは、その職務を自覚し、汗を流し、奮闘努力してきた人たちであった。
そうした観点から、昨今の下水道風土や動向を見、目前に迫った二十一世紀を展望した時、熱意と自覚をもって下水道(事業)に携わる人材の育成と定着化が大事な課題と考えられるのである。
「家貧しくして孝子生まれる」と言われるが、二十世紀の後半に始動、躍進して今日の盛運を築いたわが国の下水道(事業)が「市民の下水道」をポリシーに掲げつつ、二十一世紀にどのような進展を図り、築くか。
それは、下水道(事業)に真摯に取組み、努力する人たちによって切り開かれて行くことであろう。(原文ママ)

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