連載 水を伝える

日本水道新聞社は2024年で創業70周年を迎えました。本連載では、約70年間にわたる当社の報道について、日本水道新聞、日本下水道新聞の過去の紙面を通じて、印象的な出来事を回顧していきます。70周年という節目を迎えるに当たり、創刊号からこれまでの紙面を振り返ることで、読者の皆さまに当社の報道を通じた上下水道史を伝えるとともに、われわれも歴史の教訓から学び、次の10年に向けて、新たな一歩を踏み出すきっかけとしたいと考えています。

第39回 高普及時代の水道行政 そのあり方を諮問

昭和57年_10月7日 日本水道新聞_第2339号
昭和57年_10月14日 日本水道新聞_第2341号

2024年1月19日

日本の水道事業は普及促進に重点が置かれてきましたが、90%を超え、量から質の転換が求められるようになりました。そこで、昭和57年10月5日に厚生大臣が生活審議会に今後の水道事業のあり方を審議願うべく、「高普及時代の水道行政方策」について諮問。 1年半余の審議を経て、59年3月26日に答申、平成13年の「基本問題検討会答申」までの15年間、わが国の水道行政の規範となった、まさに画期的なものということができます。ここでは、諮問から答申までの経緯を見てみましょう。

水道普及率が90%を超えた。未普及人口の解消と並んで、「水道の質の向上」の必要性が各方面から指摘されている。こうしたことから審議会では水道部会の下に新たに二つの専門委員会を設け、①水道の施設整備②水質③経営の維持管理――について具体的方策を検討する。審議期間を1年半程度と見込み、水道行政が従来の〝量確保〟〝面的整備〟からサービス面も含めた〝水道の質向上〟への取組みに積極的姿勢を示すことは百年近いわが国近代水道の歴史に一大エポックを画するものと考えられるところであり、審議会の答申内容が注目される。
昭和57年10月5日開かれた生活環境審議会 (鈴木武夫会長))に森下厚生大臣は「高普及時代を迎えた水道行政の今後の方策について」を諮問した。
わが国の近代水道は明治以来1世紀を経て国民生活及び経済活動の基盤施設としての地位を確立しているものの、昨今では水道水源、水質問題の多様化・複雑化、さらには水道施設の老朽化、財政事情の悪化など自然的・社会経済的環境の厳しさも加わり、〝安全で快適に使用し得る水道水の安定供給確保〟〝負担の公平化〟などの社会的要請に応える上で大きな課題となっている。
このため「水道の高普及時代を迎えて、社会的要請に応え得る水道の整備、充実を図るため、水道を取り巻く環境の今後の動向を踏まえ、新たな施策を展開していくことが必要だ」として審議会への諮問となった。
審議は、①水道整備のあり方②施設整備の基本的方策③水質管理④水道経営⑤水道の維持管理――を中心に行われる見込み。

わが国近代水道の歴史は明治20年8月横浜市水道まで遡ることができるが、約1世紀を経た今日では普及率91.5%を達成し、こうした高普及時代を背景に水道に対する国民のニーズにも質的な変化がみられるに至っているところである。このため、厚生省としても「面的整備については既に一応の水準に達した」として、残る水道未普及地域の解消を図る一方、「水道の質的向上」を目指すことにしており、そのための水道行政の今後のあり方いかんについて諮問したもの。
水道部会での審議に当たっての基本的な方向としては、①水道が衛生的でおいしい水を長期的に安定して供給できるようにする②そのサービスの対価である料金負担の公平を図る――ため所要の制度改善及び行政措置について審議していく。
昨今の水道の現状は、普及率の、補助金の伸び悩みに伴う広域化事業の遅延、依然として増加基調にある水需要、多くの時間と経費を要する水資源開発などの課題を抱える一方、安定的かつ安心して飲める水道との観点から地震・渇水にも強い施設作りあるいは、高度処理の導入、微量汚染に対応した適切な水質管理、またおいしい水の供給との観点からの異臭味対策―などの問題を抱えている。これらは当然、施設の維持管理、料金、簡易専用水道、給水装置等に関連してくるわけであり、審議経過、答申は大いに注目される。※水道環境部長=山村勝美、水道整備課長=森下忠幸


社説 水道行政の路線造り
(中略)その意味で、現代の高度な経済社会を支え発展させている基盤的公共施設――生命線の一つとして水道事業をとらえ、それを完備するための水道行政方策作りは、水道という狭義のカテゴリーを越え、文明論を基調に進められる必要があろう。
直截的にとらえるなら、高度な経済社会という現代文明を支え発展させている水道事業観を根底に据え、高普及時代とそれ以後に備える〝行政方策〟を前進的に追求することはとりもなおさず、水道行政の理念への挑戦であり、時代の進展に連動する水道事業の機能や役割りを補強するのであって、その答申と行政への反応いかんは国民的な期待と関心を呼ぶことになろう。
それはまた、水道事業の新たなる活性化への道標でもある。(原文ママ)

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