第39回

「枯山水」は心の表現

枡野 俊明
曹洞宗徳雄山建功寺住職
建功寺 本堂(非公開)
上海(縁随庭)
ベルリン(融水苑)

2026年7月1日

平安時代「枯山水」は、「水」を用いることのなく、その地形によって景色を表した庭のことを言いました。地面に起伏を作り、石を据えた庭を「枯山水」と呼んでいたのです。ところが、室町時代に禅僧が、禅の思想を反映した「枯山水」を生み出しました。禅僧が自ら会得した境地や、心の奥底にある心象風景を「山水」という三次元の形を借りて表現しようとするようになったのです。
「禅の庭」の中でも「枯山水」と呼ばれる庭は、使われている素材も基本的には石組と白砂のみ。植栽があってもわずかな苔が配されるだけですから、簡素の極みと言っても良いでしょう。「枯山水」づくりは、捨てて、捨てて、捨てきってしまいなさい、ということです。余計な思惑を捨てて、素材を捨て、もうこれ以上捨てることができないところまで捨てきって、その場に臨みなさい、ということです。禅では、この捨てきることを「放下着ほうげじゃく」と言います。「枯山水」の説明で、「白砂を水や雲と見立ててください」という説明を聞くことがありますが、その見方そのものが、既にとらわれているのです。それすらも捨てきりなさいと禅は教えます。 その結果、石組と白砂によって表現された空間は、力強く、美しく、また、想像力を無限に掻き立てて、いつまでも見飽きることがありません。小宇宙のような広がりと奥行きを感じさせてくれるのです。
その空間構成の中で、非常に重要な役割を果たすのが「余白」です。庭の景色を作っているのは、目に見える素材だけではありません。何もない空間、その景色の中の一部として大きな役割を果たしています。「余白」と言う空間は、同時に「密なる空間」でもあるのです。ですから「余白」がなければ「枯山水」は成り立ちません。こういうところに「幽玄」という美を感じ取れるのは、日本人が育んできた世界に誇るべき美意識と価値観なのです。

合  掌

枡野 俊明 ますの・しゅんみょう

枡野 俊明

ますの・しゅんみょう

曹洞宗徳雄山建功寺住職、多摩美術大学名誉教授、庭園デザイナー。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根差した「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得る。芸術選奨文部大臣新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。カナダ総督褒章、ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受章。また、2006年「ニューズウィーク」誌日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。庭園デザイナーとしての主な作品に、カナダ大使館、セルリアンタワー東急ホテル庭園、ベルリン日本庭園など。主な著書に『禅、シンプル生活のすすめ』、『心配事の9割は起こらない』などがある。

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