第37回

水とアート

井上 英明
公益財団法人SGH文化スポーツ振興財団
佐川美術館学芸員
佐川美術館外観
水庭より比叡山を遠望
地下2階のホール(水の揺らぎ)
カフェからの眺望

2026年3月2日

私たちの生活に欠かせない「水」は、アートの世界においても画材や制作過程に必要不可欠なものであるのはもちろんのこと、作品の題材やモチーフにも密接な関わりがあります。
古くは、中国の代表的な景勝地である洞庭湖を画題にした「瀟湘八景図」をはじめとする「山水図」など、水にまつわる作品が数多く制作されてきました。現在では美術分野の領域も広がりを見せ、空間全体を美術品と捉えるインスタレーション作品などにより、実際の水を活用した芸術も増えてきています。
滋賀県守山市に位置する佐川美術館は、佐川急便株式会社の創業40周年記念事業の一環として1998年3月に開館し、日本を代表する芸術家の平山郁夫(日本画家)、佐藤忠良(彫刻家)、樂直入(陶芸家)の作品を常設展示するほか、和の印象を重視しモノトーンを基調とした建屋と、その周囲に水庭を配していることで「水に浮かぶ美術館」と呼ばれています。建築と水によって生み出されるアートな空間は、来館された多くの人の眼を楽しませています。
また、当館ではこれまでに水庭を活用した芸術活動を展開しています。代表的なものを挙げると、霧の芸術家による人工的な霧を水庭に発生させた作品の公開や、水庭上に舞台を設けてコンサートを開催するなど、水とアートを融合させた取組みを行っています。
これらは期間など限定的なものになりますが、館内の地下2階のホールでは、常設的に水を活用したインスタレーション作品を楽しむことができます。地下ホールの天窓に水を張ることで、正午前になると太陽光を浴びて壁面に水の揺らぎが幻想的に現れます。
その光景は一つとして同じものはありません。まさに鴨長明の『方丈記』の冒頭文「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。」と同じく、常に同じものはこの世にない「無常」の世界観を体現した空間になっています。
天候や時間の縛りはありますが、水と光が織りなすこの現象は若者を中心にSNSなどで拡散され、当館随一の「映え」スポットになっています。
現在、佐川美術館は2026年6月末まで大規模改修のため休館しています。7月からリニューアルオープンを予定していますので、ぜひ水とアートの世界を求めてお越しください。

井上 英明 いのうえ・ひであき

井上 英明

いのうえ・ひであき

1975年福岡県出身。2002年帝塚山大学大学院博士後期課程在学中に佐川美術館に勤務。2004年佐川美術館の学芸員となり、現在同館の学芸統括を務める。
佐川美術館 https://www.sagawa-artmuseum.or.jp/

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連載 水を伝える
連載 水を伝える
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